ToSMS

次世代の木材供給システム

震災発生から4年以上が経過して、被災された方々が安定した生活基盤を取り戻す為には、一日でも早い恒久的な住宅への居住が必要です。これに対応する為に被災地では「災害公営住宅」の建設が進められています。末長く住み続けて頂ける木造住宅建設の為には、使用する木材をしっかりと乾燥する事が必要です。

そこで、木造災害公営住宅等に即応できる木材供給体制の構築を目的にした「太陽熱木材乾燥庫ToSMS(トスムス)」を整備しました。この乾燥庫は従来の灯油等の化石燃料を使わずに、太陽熱を効率的に利用して大量の木材を乾燥しながらストックする事が出来ます。これにより木造災害公営住宅等の建設に際して、高品質な地域材を安定して供給することが可能になります。また、太陽熱を利用して乾燥するエコロジカルなシステムは、これからの時代の木材生産において重要な役割を担うこととなります。

太陽熱木材乾燥庫の原理

木材乾燥の理論「平衡含水率」について

木材の水分は、細胞壁内にある結合水と、細胞内腔にある自由水に分かれます。伐採した木を乾燥させると、まず自由水が蒸発してなくなった後、結合水の蒸発が始まります。自由水が消失した時の木材の含水率は約30%です。また、この状態を「繊維飽和点」といいます。 木材乾燥には、この「結合水」を除去することが望まれています。木材の性質はこの「繊維飽和点」を境に大きく変化します。結合水が減り始めると木材の性質が大きく変わり、収縮して、たわみにくくなります。 そしてさらに乾燥を続け、一定の温度、湿度の条件の中に長時間放置すると最終的に安定する含水率を「平衡含水率」といい、この状態になってはじめて、空気が乾燥すると水分を放出し、湿ってくると吸収するという、木材の優れた調湿機能を発揮することができます。建材としての木材に求められる乾燥のレベルは、この「平衡含水率」以下と言えます。

木材乾燥の理論「平衡含水率」について

木材の平衡含水率

温度と湿度が一定した環境に木材を放置すると木材の含水率はその室温度環境と平衡して安定します。横軸の温度と縦軸の相対湿度から、20℃65%の環境では、含水率約12%になることが読み取れます。同様に、20℃55%の平衡含水率は10%と読み取ることができます。ToSMSでは太陽熱を利用して外気よりも相対湿度の低い空気を作っています。

木材に求められる含水率

日本における平衡含水率は、地域や季節によって温度と湿度が異なるためさまざまですが、一般に屋外で15%、エアコンをつかう室内は12%と言われています。 太陽熱木材乾燥庫では、外気を太陽熱で温めて倉庫内に導入することによって、外部よりも平衡含水率の低い環境をつくります。また同一の湿度条件でも、一度乾燥した木材が吸湿して平衡する含水率と、生材から乾燥して平衡する含水率とでは1~3%の違いがあり(ヒステリシスといいます)、吸湿過程のほうが低い含水率を示すことが知られています。含水率12%程度の商品を安定的に供給できるようにすることが目標です。

太陽熱利用により乾燥庫内を平衡含水率の低い状況に

太陽熱木材乾燥庫ToSMSの仕掛けは、太陽熱をそのまま住宅の暖房や無負荷換気として利用する「パッシブソーラーシステム」の技術を応用しています。空気集熱式の太陽熱利用は、奥村ソーラーと呼ばれ、既に住宅で30,000棟の実績を持ち、3,000件を超える、学校や老人福祉施設、病院などの公共建築への導入実績を持つシステムです。 太陽熱集熱装置と、空気集熱のための送風機、その熱を搬送するためのダクトで構成されるシンプルなシステムですが、室温・外気温・集熱空気温度の3点を計測しながら最適な室内環境を制御プログラムでコントロールしています。

太陽熱木材乾燥庫ToSMSのしかけ 太陽熱木材乾燥庫ToSMSのしかけ

【ToSMSの庫内】260m2の広い庫内では大量の木材を乾燥しながらストックする事ができます。

太陽熱木材乾燥庫ToSMSのしかけ

【南側傾斜壁面集熱面】ガルバリウム波板+フッ素樹脂フィルムの温室効果を利用して太陽熱で外気を暖めます。集熱空気を4台のファンで倉庫に押し込んでいます。集熱モードで常に倉庫内はプラス圧に保たれます。

太陽熱木材乾燥庫ToSMSのしかけ

夜間はLED照明によりToSMSは幻想的に浮かび上がります。

  1. 南側傾斜壁面集熱では外気を太陽熱で温めて乾燥した温風をつくっています。

    南側傾斜壁面集熱では外気を太陽熱で温めて乾燥した温風をつくっています
  2. 乾燥した空気をファンで押し込むことで倉庫内部をプラス圧に保ちます。木材の水分は倉庫の外に押し出されます。

    乾燥した空気をファンで押し込むことで倉庫内部をプラス圧に保ちます 木材の水分は倉庫の外に押し出されます
  3. 頭上に設置した設置した4枚のパネルで倉庫上部の空気を暖めて循環しています。

    頭上に設置した設置した4枚のパネルで倉庫上部の空気を暖めて循環しています
  4. 常に空気を循環しています。

    常に空気を循環しています

木材乾燥は、時間を掛けることが許された昔は、「天然乾燥」でしたが、天然乾燥も太陽熱を利用した木材乾燥であることには変わりがありません。しかし天然乾燥では、その環境における「平衡含水率」よりも低い含水率に乾かすことはできません。しかしToSMS では太陽の熱エネルギーを利用して外気を暖めることで外気よりも相対湿度の低い空気を大量につくって倉庫内に押し込んでいます。そのため空気が木材内部の水分を外に運び出すことで木材乾燥を促進しています。

ToSMSのデータ

ToSMS庫内と外気の温湿度変化の比較

木材は乾燥の過程で大量の水分を蒸発させます。 木材に含まれる水の割合(含水率)を示す場合は、水分を含めない木材重量に対する水分重量の割合で表します。

含水率(%) =(乾燥前の重量-全乾重量)÷全乾重量×100

伐倒直後の樹木の含水率は状態にもよりますが100%近くあります。その状態から住宅の構造材として利用出来る含水率20%にまで下げるためには、木材1m3あたり実に224kg(杉の場合)もの水分を蒸発させなければなりません。その為、乾燥庫内の温度を上げるだけでは相対湿度が高くなってしまい、木材を乾燥させることが出来ません。
乾燥庫内の温度を上げつつも、木材から放出される水分を効率的に庫外に排出して庫内の相対湿度を下げる為に、太陽熱木材乾燥庫ToSMSのシステムが編み出されました。

ToSMSは室温、外気温、集熱空気温度の3点を計測しながら、4台のコントローラーで最適な庫内環境となるよう、制御プログラムでコントロールしています。
温湿度センサーが外気1箇所、温風吹き出し口に4箇所、庫内中央に1箇所の計6箇所に配置され、5分間隔で測定を行っています。

コントローラー

コントローラー

温風吹き出し口に配置された温湿度センサー

温風吹き出し口に配置された
温湿度センサー

温湿度データロガー

温湿度データロガー

これらの温湿度センサーを用いて測定された8月(夏)と12月(冬)のToSMS庫内と外気の温湿度変化の比較を示します。

グラフ1 8月の温湿度実測データ
(平成26年8月)

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ1  8月の温湿度実測データ(平成26年8月)

グラフ2 12月の温湿度実測データ
(平成26年12月)

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ2  12月の温湿度実測データ(平成26年12月)

夏、冬の季節を問わず、ToSMSの庫内はひと月を通して温度が高く、相対湿度が低い環境を作り出すことが可能となっています。
またToSMS庫内の温度と外気温度の差に着目すると、8(夏では25℃、12(冬では20℃程ToSMS庫内の方が高くなります。

時刻と天候による違い

グラフ1,2をみても明らかなように、太陽熱木材乾燥庫ToSMSは、自然エネルギーである太陽の日射を活用しているために、時刻や天候に左右されます。晴天の日と雨天の日の温湿度実測データを示します。

グラフ3 晴天の日の温湿度実測データ

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ3  晴天の日の温湿度実測データ

グラフ4 雨天の日の温湿度実測データ

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ4  雨天の日の温湿度実測データ

程度の差はありますが晴天の日でも雨天の日でも、時間帯を問わず、ToSMSの庫内は温度が高く、相対湿度が低い環境を作り出すことが可能となっています。

平衡含水率の比較

温湿度の実測データ(グラフ3)を平衡含水率のグラフに表しました。ToSMSの庫内は平衡含水率が低い環境つまり木材乾燥に適した環境であることがわかります。

グラフ5 晴天の日の平衡含水率

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ5  晴天の日の平衡含水率