Ecochan

地域農林産食物の乾燥

東日本大震災による福島第一原子力発電所の事故に伴う放射能汚染は、広範囲に深刻な影響を与え、多くの農林水産食物が被害を受け、日本の食文化の根底を揺るがす問題となりました。特に原木露地栽培椎茸は宮城県を含む6 県で93 市町(平成24 年6 月現在)で国による出荷制限指示を受けており、生産再開に向けて様々な取組がなされています。宮城県登米市では、宮城県の栽培管理基準に従い露地の除染や原木の管理等を行った結果、平成26年8月に県内でいち早く出荷制限が解除となりました。
しかし出荷制限が解除となっても、震災以前の体制に戻すことは容易な事ではなく先行きの不透明感が拭えない状況です。その為、消費者と生産者、流通業者などの利害関係者による科学的な裏付けに基づいた信頼関係の回復を行うと共に、地域農林産食物の新たな加工技術の確立と商品開発による需要創造が急務となっています。
そこで太陽熱木材乾燥庫ToSMSの技術を応用した地域農林産食物の乾燥=「乾物」の製造と、これを核とした商品開発を行う事といたしました。

日本は山の幸、野の幸、海の幸が豊富にとれる恵まれた環境にあり、その中でも我々日本人は古から「食」の歴史を築き上げてきました。そして先人たちの智恵によって穀物、野菜、豆、魚、肉などの収穫、捕獲される食材を用いた乾物が代々受け継がれてきました。乾物は野菜などの少ない季節を過ごすための保存食として必要が生んだものですが、手間と年月により素材からうま味を引き出す知恵の結晶です。乾物を用いたレシピづくりや加工食品の開発を、特定非営利活動法人キューオーエルが行う医食同源プロジェクト・宮城カルテ食堂と連携して行う事により、地域農林産物の需要拡大を図ると共に、安全で自然の恵み豊かな食材を提供していきます。

太陽熱食品乾燥庫の原理

太陽熱利用の空気集熱によって外部よりも平衡含水率の低い環境

東日本大震災以降、エネルギーの高効率利用・未利用エネルギーの利用が求められる中、全てを化石燃料などのハイレベルエネルギーに頼るのではなく、ローレベルエネルギーで可能なことはローエネルギーに切り替えていくことが求められ、パッシブソーラーシステム等の「太陽熱利用」が再評価されています。
太陽熱食品乾燥実証実験施設Ecochan は、天日乾燥を衛生的なビニールハウスの中で行い、太陽熱利用の空気集熱によって外部よりも平衡含水率の低い環境をつくり出すことにより、食材の乾燥を促進します。

太陽熱利用の空気集熱によって外部よりも平衡含水率の低い環境 太陽熱利用の空気集熱によって外部よりも平衡含水率の低い環境
  1. 南側傾斜壁面では外気を太陽熱で温めて乾燥した温風をつくっています。

    南側傾斜壁面集熱では外気を太陽熱で温めて乾燥した温風をつくっています
  2. 乾燥した空気をファンで押し込むことでビニールハウス内部をプラス圧に保ちます。食品の水分はビニールハウスの外に押し出されます。

    乾燥した空気をファンで押し込むことで倉庫内部をプラス圧に保ちます

Ecochanのデータ

Ecochan庫内と外気の温湿度変化の比較

太陽熱食品乾燥庫Ecochanは太陽熱木材乾燥庫ToSMSと同様に、庫内の温度を上げつつも、食品から放出される水分を効率的に庫外に排出して庫内の相対湿度を下げる事ができるように、南側傾斜壁面で温められた外気をファンで庫内に送り込んでいます。 また庫内の温湿度と共に乾燥には風が強く影響します。乾燥しようとしている食品の表面には常に水があり、風量を上げると食品表面の空気境膜が薄くなり水の蒸発速度が増加します。Ecochanは温めた空気をファンで庫内に送り込み常に一定の風量が食品にあたり効率的に乾燥出来るよう設計されています。

温湿度センサーを用いて測定された7月(夏)と12月(冬)のEcochan庫内と外気の温湿度変化の比較を示します。

グラフ1 7月の温湿度実測データ(平成26年7月)

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ1  8月の温湿度実測データ(平成26年8月)

グラフ2 12月の温湿度実測データ(平成26年12月)

  • ●ToSMS庫内温度(℃)
  • ●ToSMS庫内湿度(%RH)
  • ●外気温(℃)
  • ●外部湿度(%RH)
グラフ2  12月の温湿度実測データ(平成26年12月)

夏、冬の季節を問わず、Ecochanの庫内はひと月を通して温度が高く、相対湿度が低い環境を作り出すことが可能となっています。 またEcochan庫内の温度と外気温度の差に着目すると、7(夏では25℃、12(冬とも30℃程Ecochan庫内の方が高くなります。

乾物の魅力

乾物には生の野菜では得られなかった様々な魅力がたくさんあります。

①野菜の旨みが凝縮しておいしくなります

乾燥する事により野菜に含まれる水分が蒸発して、野菜本来の味が凝縮します。そのために旨みや甘みを強く感じます。
また乾椎茸には旨み成分のグアニル酸が豊富に含まれており、昆布のグルタミン酸、鰹節のイノシン酸と並ぶ三大旨味成分の一つです。このグアニル酸はグルタミン酸と混ざると数十倍に旨味が強くなることが知られており、乾椎茸と昆布でダシを取るととても美味しくなります。

②乾燥する事で栄養アップ

乾燥する事で野菜の重量が5分の1から10分の1程に減少します。その為に野菜がもつ様々な栄養素を摂取しやすくなります。
例えば体内のナトリウムの排泄を促すカリウムの接種がしやすくなるために、減塩の効果も期待できます。さらに、おなかの調子を整える食物繊維や、骨粗しょう症の予防に効果があるカルシウムも豊富です。

表1 生野菜と乾燥野菜の食品成分の違い(可食部100g当)

  生椎茸 乾椎茸 生大根 乾大根
カリウム 280mg 2,100mg 230mg 3,200mg
食物繊維 3.5g 41g 1.4g 20.7g
カルシウム 73mg 310mg 24mg 540mg

日本食品標準成分表2010に基づく

③お日様のチカラで栄養アップ

椎茸にはビタミンDのもとになるエルゴスチンが豊富に含まれています。このエルゴスチンは日光に当たるとビタミンDに変わる作用があります。その為、太陽熱食品乾燥庫Ecochanで乾燥させることによってビタミンDの量が大幅にアップします。ビタミンDはカルシウムの吸収を助ける役目があり、骨や歯を丈夫にする事に寄与します。

グラフ3 乾燥条件の違いによる椎茸のビタミンDの量(可食部100g当)

グラフ3 乾燥条件の違いによる椎茸のビタミンDの量(可食部100g当)

分析期間:日本食品分析センター

④水で戻すだけで手軽においしい料理

乾物は水戻しに要する時間がかかり面倒という話を聞きますが、慣れ親しめばこれほど簡単で便利な食材はありません。
乾物は①にあるように旨みが濃いために少ない調味料で味を出すことができます。また水分が少ない為に水以外のだし汁で戻せば味がしみやすく煮物にも最適です。さらに炒め物などに使えば水っぽくなりません。

⑤歯ごたえがアップ

最近は食べ物を柔らかく調理して食べる傾向にあるため、歯全体の噛む力が弱くなってます。乾物には独特の歯ごたえがあり独特の食感を得られる上に、噛む力を育て歯の健康維持にも役立ちます。

⑥生活習慣病の予防に

平成18年国民健康・栄養調査によれば、日本人では40~74歳の人のうち男性は約6割、女性は約4割が高血圧です。また、厚生労働省の「健康日本21」における試算によれば、国民の血圧が平均2mmHg下がれば、脳卒中による死亡者は約1万人減り、新たに日常生活活動が低下する人の発生も3,500人減り、さらに、循環器疾患全体では2万人の死亡が防げることが見込まれています。
このような背景から、一食のエネルギー量 600kcal、塩分 3g以下の食事が推奨されています。 乾物は①のように旨みが凝縮されているために、減塩でも美味しい食事をつくることができます。さらに②で示したように体内のナトリウムの排泄を促すカリウムの接種がしやすく、より効果的に減塩を進める事ができます。

⑦保存食として最適

しっかりと乾燥した野菜は、長期保存が可能です。そのため乾物を常備しておけば少量でもいつでも使えて便利です。
また災害時の保存食としても乾物は最適です。しかしいくらすばらしい保存食とはいえ、日頃から使い慣れていないと、いざ非常時に食べようと思っても使い勝手が分かりません。味に慣れていなければ、たとえ非常時でも食事がつらいものになってしまいます。日頃の食卓で乾物を使った料理に親しんでいれば、誰もが非常時でも抵抗なくおいしくいただけますし、いざというときのレパートリーとして活躍してくれます。長期保存が利く、いつでも心強いストック食材として、その力を存分に発揮してくれます。